「やらないと ぶっとばすぞ」という話

 2日前に手作りお金から「さんすうが すき」になった話を書いたが、この話には伏線が。3月3日から少しの間、私の頭を悩ませていたことで、ずっとここに書こう書こうと思いながら、勉強会やら体調不良やらで後回しにしていた話。
 息子は「あした レストランごっこ やるから」と張り切ってレストランごっこで使うお金を家で作っていくように。初めは適当な形状だったが、段々きれいなものへ。夫は「S吾ぎんこう」という消しゴムスタンプを作った後、息子に名前を書かせた後、裏返し状態の字を彫ってもう一つスタンプを作ったり。息子は、お金やそれを入れる袋にスタンプを押したりして、たくさんお金を作っていた。その後「Sくんのは ほんものに にている」と周りに言われたらしく、クラスのお友だちから作ってと頼まれるように。2月以降、お迎えに行くと「きょうは いそがしいんだ。しごとが 2つもある」というようなことを言うように(「2つ」というのはお金作りと車の広告の切り抜き)。夕食後9時を過ぎても「おわらない」ということも。事情を聞くと「たのまれた」という返事だったので「できることをできる範囲でやるんだよ」と話した。「無理に頑張る必要はない」「褒められると嬉しいの?嬉しくないことはしなくてもいいんだよ」とも。「Sくんのは ほんものに にているからって みんな ほしがるの」と答える息子。RくんとMくんに頼まれたと言っていた。私自身、保育園でみんなで作ればいいじゃないかと思っていたのだが、しばらくは様子を見ようと静観することに。
 結婚記念日に3人で出掛けた日の夜、くったくたに疲れていたし9時も過ぎていたから「寝よう」と誘うと、「Sくん おかね つくらなきゃ」と言う。「また明日作ればいいじゃない」と言うと、「だって、Kに『つくってこないと ぶっとばす』って いわれたんだもん」とイライラしながら答える息子(早く作らないとと焦っている様子)。いやー、もうびっくりしてしまうと同時に「えっ?いじめ?」と思ってしまった私。Kというのは、いつも息子と遊んでいる双子の一人。少し落ち着きがないところがあるが、私にもすぐ寄ってくるかわいい男の子。話を聞くと、やっぱり息子のお金が上手なので欲しいということ。ただ、息子の様子から、“頼まれて嬉しい”様子はもちろん微塵も見られず、ぶっとばされることを怖がっている。いじめかもと不安を感じるとともに、Kは「ぶっとばすぞ」と言われる環境で育っているんじゃないか、我が家も時々「ぴしっとやるよ」とか言っているよなと、息子を含め子どもがさらされる暴力的な言葉を考えてしまった。誰かの都合で(大体親です)子どもを“動かそう”とするよなあ、と。もちろん、社会生活で必要なことを教える場合、ムチを使う必要もある。段々と“いじめ”の心配より、子どもを取り巻く環境に思考が向いていってしまった。が、「お母さん、いつも『できることをできる範囲でするように』って言っているよね?『嬉しくないことはしないで』って言っているよね?このこと、先生に話すから」と言うと「だいじょうぶ、Sくんが なんとかする」と言う。とにかく、カッカしないでしばらく様子を見なくちゃと自分自身に言い聞かせて、その日は寝た。
 翌日から私の妹が一泊したが、上で書いた「2つ」の仕事を一緒にやりたいと言う。最初はお金作りじゃなくて、息子のコレクションである車の切り抜き。妹にも事前に電話で頼んだのかチラシを持ってきてもらったし、2階のおじちゃんにもポストに入れてもらったり、実家の母(と隣の叔母)にも郵送してもらったりして、かなりの量がたまっている。私もたまには手伝ってあげようと、チョキチョキと切り抜いたりしたが、一泊して朝ごはんを食べている時、妹に「Nちゃん、きょうは おかねを いっしょに つくってね」と言う。妹が「自分で作りなよー」と答えると「つくらないと ぶっとばす」と答えた息子。妹にも前に日に起きたことを話していたのだが「ぶっとばすって、意味知っているの?」と笑いながら妹が答えると「しってるよ。こうでしょう」と拳を突き出す。また、妹が帰ろうとする段になって「Nちゃん、かえらないで。おかね つくんの てつだってよ。Kに おこらえるの いやなんだよ」と駄々をこね始めた。上のことから2日経って、改めて根が深いなあと実感。とにかく妹は帰らなきゃいけないし、その場は収めたが、上で書いたようなことを再度話して聞かせた。「せんせいには いわないで」というので、とりあえず数日間は様子を見ようと。
 翌日(月曜)は私が勉強会と食事会で帰宅が遅く(で、夫は風邪で息子もベッドに)、翌々日の夜に「あのこと、どうなの?Kと何か話したの?」と聞くと「うん。『もう つくらないから』と いってきた」と、何事もなかったように答える息子。私はてっきり「『ぶっとばす』って言わないで」とか「嫌だ」とか言ってくるのかなと思っていのだが。月曜にK本人に言ったらしく、Kは何も答えなかったという。そして「まえも RやMに たのまれて つらかったんだよね〜」と言う息子。えっ、嫌だったの?と唖然。まあ、言葉通りに受け取る必要もなく、これは嬉しいことと“面倒である”ということの半々だったのだと思う。今回は「ぶっとばす」という“脅迫”に屈しないで、「やらない」ことを選んだ息子。一応今回のことは本人自身が問題解決したことになるので、よかったと言えばよかったのだが、私自身は家庭教育を各家庭に任せたままじゃなく、保育園に伝えて、何かできないかと真剣に考えてしまった。以前興味があって少し調べた「ライフスキルレーニング」みたいなものを保育園でやってもらえないかとか。一方、「こういう指導をしてください」みたいな出しゃばりな親は嫌がられるだろうなあ、でも、自分の子どもを守るのは親の務めだし・・・あーだこーだと、あれからずっと考えていた。卒園を前にして、今更ながら、先生に事実だけでも(子どもの様子、親としての感情)を話そうかなと思ったり。双子のもう一人Hに、先日は「めつぶし」をやられたということ。息子は泣いたらしいが、あまり詳しく話してくれない。HはKに比べて暴力的なことはしない子だと認識していただけに、少しびっくり。ただ、こういうことは子ども同士ではよくあることだと思うから、殊更大声で何か言う気はない。一方で双子のKとHとは違う小学校でホッとしているのは事実。
 嫌なことをされてもされたのが悔しいのか、正直に言わない息子。なかなかこの辺は難しいところ。今後は息子の優しさが本来向われるべきところに向けられ、慕われることと“使われている”ことを混同していないか、今以上に親として心を配っていきたいと思っている。