久々のジョン・アーヴィング

 大学時代に何冊か読んで以来のアーヴィングの小説。1年前に買った文庫本、上・下巻合わせて1000ページ強。寝しなと寝起き、土日の時間があるときに少しずつ。

サイダーハウス・ルール〈上〉 (文春文庫)

サイダーハウス・ルール〈上〉 (文春文庫)

サイダーハウス・ルール〈下〉 (文春文庫)

サイダーハウス・ルール〈下〉 (文春文庫)

サイダーハウス・ルール [DVD] 
 原作は1985年、邦訳は87年、文庫化は96年の作品。古くて新しい問題、妊娠中絶(堕胎)を扱った重厚な小説。私にとっては映画館に観に行った作品でもある。確か2000年なので、息子を産んで初めて「映画館に行きたい!」と夫に頼んで観に行ったんだと思う。映画もよかったし、アーヴィングも結構好きだし(好きだから映画館に足を運んだ)、じゃ、原作は?という感じで。
 タイミングというのは面白いもので、1月にFOXその他で中絶をテーマにした映画『スリーウイメン −この壁が話せたら−』を観るチャンスがあり、望まない妊娠に対する問題(特にアメリカにとってはデリケートな問題)を考えさせられた。スリーウイメン [DVD]この作品はオムニバス形式で、同じ家に住むことになる50年代、70年代、90年代の女性たちの望まない妊娠に対する苦悩、そして解決(あるいは未解決)を描いている。中絶が非合法時代の50年代の女性(デミ・ムーア)が自分で処理しようとしたり、闇の医者(本当の医者かは不明)に自宅の台所で処置させる場面は見ていられなかった。
 アーヴィングの小説も、非合法時代を背景に「合法化すべき」という著者のスタンスで書かれている。映画もよかったが(脚本はアーヴィング自身!)、小説もかなりよかった。映画では孤児院の院長であるドクター・ラーチが出産だけでなく非合法の中絶手術をどうして行うようになったのかは描かれていなかったが、小説では十分な質と量で読み手に説得するように描かれていた。また主人公である孤児ホーマーが孤児院とリンゴ農園という2つのコミュニティーで生活する姿を通して、1940年代、50年代のアメリカ(メイン州)の貧富の問題や人種問題などが描かれる。それは新聞紙上にある“運動”とは関係なく、そこに現にあるルールの違いとして、結果として描かれることになる。
 この小説でうならされたのは、場面転換の仕方。よくある手法として章で転換、あるいは1行空けて転換があるが、この小説は一字下げ(つまり段落変更)で、リンゴ農園から孤児院の話へ、誰それの話からあの人の話へと移っていく。自然に読まされてしまうのだ。ラストがホッとさせられたのは映画も小説もフィクションとして上々。気持ちよかった。ちなみに、映画『スリーウイメン』の最後は実話(?)ということもあり重く、「あなたは中絶が是が非か」と問いかける。もちろん、それは映画自体が問題提起を起こすことを狙いとしているからであろう。