数学好きといえば父

 昨日の夜読もうと早くベッドに入ったのに、息子に「あらしのよるに」シリーズを読み聞かせしたら、すぐ寝てしまった。朝4時近くに目覚めたので読み始め、またうとうとと寝てしまい、そして次に目覚めた7時ごろには起き出してリビングで読むことにした。家人はまだ寝息をたてていた。

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

 帯にもあるように映画の出演者が演技しているのを想像しながら読んでいた。深津絵里は合っていたけど、小説の中の博士は寺尾聰にならなかった。どんな演技をしたんだろう・・・。ちなみに11月下旬に私の大学で舞台挨拶付き試写会が行われたのだが(研究会発表の前日で行く余裕なかった)。
 ステキな物語だった。お仕えする人に真摯に向き合う、また家政婦という仕事に誇りを持っている主人公に好感が持てる。一人っ子のルート(√)は母親と一緒に博士の対応にルールを作り、ルールに従いながら一人の人間として記憶が80分しか持たない博士と付き合う姿にも、子どもらしさを持ちながら厳しい環境で育っていることを自覚していることが伺える。数学に対する著者・小川洋子さんの愛が感じられた。私まで数学に魅了されてしまいそうだった。
 前半の段階で、小説に描かれている「数学の魅力」があまりにも魅力的だったものだから、私の父も数学が好きだったことを思い出した。毎年共通一次センター試験の問題が新聞に載ると解いていたのを思い出す。中学時代、数学で分からないところを質問したら、習っていない(高校で習う)公式を使って解いて見せてくれたことを思い出す。「そんなやり方されても、私は分からないよ」と口に出したか心でつぶやいたかどっちだったかは忘れたけど、結局分かるようには教えてくれなかったことは確かだった。県でトップクラスの県立高校に進学し、入試で8番の成績だったと教わったのは、その時だったかもしれない。とにかく頭はよかったけど、口下手で人付き合いも下手だった父。私も中学生でどう父と接していいか分からなく、子ども心にも父に聞いたら父が喜ぶだろうという気遣いもあって質問したのだ。その直後だったか別の機会だったかこれまた忘れたが「数学の解法」とかいうタイトルがついた数学の参考書を2冊もらったことも思い出した。小説を読みながら「あの本、どこにいっただろう」とふと思い、全く手をつけなかったあの参考書を今更ながら手に入れたいと思ってしまった。私の想いと父の想い、ずれていたあの頃。この小説を読みながら「父が生きていたら、父のよさをもっと知れたのに」という思いに駆られてしまった。
 戻る。正直、この作品自体もよかったけれども、解説の藤原正彦氏(数学者)の文章が素晴らしい。今まで読んだ解説の中で、一番文才があると思える文章。著者の小川洋子さんが、事前に取材する相手(数学者)を藤原先生に選んで正解だったと思う。こんな素晴らしい解説が438円という文庫本に収まっているなんて、本当に贅沢な話だ。小川さんにも読者にも。