たかが名前されど名前
来年映画化されるサギサワ作品を読む。昨晩と今朝、一晩に渡ってベッドでひたすら1冊を読むことに集中した。久しぶりの小説でもある。サギサワさんの遺稿ということもあって、緊張して読み始めた。なんかドキドキしながら・・・。
- 作者: 鷺沢萠
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/05/29
- メディア: 単行本
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私には韓国人の学友や教え子はたくさんいるが、在日の知り合いはいない。「いない」と思っている。ただ『眼鏡越しの空』、この作品を読んで、通名にしていたら日本人と認識して日本人は付き合ってしまうんだということに、今更ながらびっくりさせられた。そして本名を積極的に周りに知らせない限り日本人らしく振舞っている可能性を教えてくれた。高校時代の先輩と本屋でばったり会い、主人公は彼女自身の名前で翻弄された20数年の話をする。ずっと本名で生きてきた先輩との違いが浮き彫りに。サギサワさんがエッセイなどで「それぞれの事情がある」というのを書いていたが(私はこのメッセージが好きで特に印象が強いのだ)、本名で通していた先輩というのを比較対象として主人公の「事情」を描いている。在日のアイデンティティ、その揺らぎ、この作品でサギサワさんは「それぞれの事情」をすがすがしく描いている。重くなく。また『眼鏡越しの空』というタイトルはドリカムの歌らしく、この物語の重要な役割を果たしている。いや、久々に重いテーマではありながら前向きにさせてくれた小説を読んだ。サギサワさん、あっぱれ。